大統領夫人のファッションがなぜ重要なのか

究極の「ファッション・ステートメント」

Sayaka Nogawa

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大統領夫人がどこのブランドを着るかという話題は数ヶ月前から話題になっていた。

これは毎回恒例のことで、大統領夫人のドレスは大統領のスピーチ同様全世界の注目を集めるため特段珍しいことではない。しかし、今回特殊だったのは、ドレスの依頼を拒否、もしくは着て欲しくないと表明するデザイナーが次々と現れたことだ。この中では、デザイナーのトム・フォードが以前夫人のドレスの依頼を断ったという話が一番有名かもしれない。それに対し、トランプ大統領がインタビューで「トム・フォードなんか嫌いだ!彼のデザインも彼も嫌いだ」と言っているあたり、トム・フォードが依頼を断ったといういう話が真実味を帯びてくる。また、アメリカ出身のデザイナーのマーク・ジェイコブスも否定派のひとりだ。

通常、大統領夫人に自身のデザインしたドレスを着用されることは売り上げや認知度の貢献にもなり、また名誉なことでもあり、喜んでデザインしてもらえるところだと思うのだが、今回は少し様子が違う。着て欲しくないと思う人々が存在し、そしてそれを公表までしている。

結局、メラニア夫人の就任式のドレスは大方のメディアの予想通り、ラルフローレンであった。ラルフローレンは彼女に着用されることを望んでいたし、就任以前の公の場でもラルフローレンを着用していた。

とここまで書いてきたが、本当にこの記事で言いたいことは、不買運動のことでもないし、今後の大統領夫人のドレスのデザイナーを案じているわけでもない。大統領夫人が着る服がいかに大事かという点である。私も別に歴代大統領夫人のルックを細かにチェックするほどのオタクでもないし、昔のファーストレディがどんなファッションをしていたのか細かく覚えているほど詳しくはないのだが、ネット上で、就任式の服ごときになぜここまで騒ぐのかというような意見を垣間見たのがこの記事を書いたきっかけだ。ここで思い出されるのが「たかが服、されど服」である。なんだかゴシップ的な、例えば、芸能人着用モデル!かのようなノリでこれを見ると、重要さがよく分からない。就任式で(選挙で選ばれた大統領でもない)隣のパートナーのファッションがなぜ重要なのかといえば、突き詰めれば大統領が話すスピーチと同じような役割を担っているからだと思う。

ファッションとは思考である。

Diorの女性初のクリエイティブディレクターであるマリア・ グラツィア・キウリの言葉だ。

だた美しい洋服を着れば良いという訳ではない。流行に乗っていればいいということではない。ファッションスナップと、大統領夫人のスナップは同じようで大きく違う。大統領夫人のファッションは思考を表現する究極のファッションのひとつだからこそ、ここまでの影響力を持つ。私たちがどんな色の服を着ようが、どのブランドを着ようが、「その服に込められた意味は?」なんて聞かれることは無いか希だが、ファーストレディーとして着用する服は、そうはいかない。

ファッションアイコンとしても人気の高かった、ミシェル・オバマ前大統領夫人の装いはその緻密な思考をよく表している。

US版の元記事はこちら。

以下は、この記事の抜粋だ。

「ミシェル・オバマは自分自身、国、そして社会状況にとって、何らかの意味をもつデザイナーを丁寧に選んでいた。『でも、たかがファッションでしょ? 深い意味なんてないじゃないの』というような言葉を、僕は何回も聞かされてきた。ミシェル・オバマはそんな言葉を幾度となく覆し、8年間の間で政治とファッションについてさまざまな強い主張をしてきたのさ。そんな偉業を成し遂げることができたのは、きっと彼女だけだと思うよ」

つまり、究極の「ファッション・ステートメント」だ。オバマ前大統領がスピーチの名手であるならば、ミシェル前大統領夫人はファッション・ステートメントの名手と言えるのではないか。スピーチが人々の心を掴み、共感を生むのと同じように、非言語でのメッセージで、二人が目指していた共感や寛容を表現していた。

ハイブランドをエレガントに着こなし、庶民的なファッションを魅力的に着こなし、アメリカの若手デザイナーや有色人種のデザイナーを積極的に引き立て、政治的な配慮もし、バランスよく着こなすのは簡単なことではないはずだ。オバマ夫人は背も高く洋服が映える要素に恵まれているが、それだけではない魅力を感じさせるのは、きっとそこから滲み出るメッセージが人々の心に上手く伝わっているからなのではないかと思う。

しかし、ファッションに深い意味を持たせる意図がなければ、ただの美しい洋服にすぎない。ケネディ夫人を意識したとも言われているメラニア夫人の美しいスカイブルーの装いに、思考は存在していたのか。これからの大統領夫人の装いに注目したい。

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